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星の王子さま (18) もののあわれ

「星の王子さま」が、かくも多くの日本人に愛読されているのには、ちゃんとした理由があります。それは「星の王子さま」が、幻想的で可愛らしい童話の裏に、「もののあわれ」という「人の道」を説いているからです。

「あんたたちは美しいけど、ただ咲いてるだけなんだね。あんたたちのためには、死ぬ気になんかなれないよ。そりゃ、ぼくのバラの花も、なんでもなく、そばを通ってゆく人が見たら、あんたたちとおんなじ花だと思うかもしれない。だけど、あの一輪の花が、ぼくには、あんたたちみんなよりも、たいせつなんだ。だって、ぼくが水をかけた花なんだからね。覆いガラスもかけてやったんだからね。ついたてで、風にあたらないようにしてやったんだからね。ケムシを --- 二つ、三つはチョウになるように殺さずにおいたけど --- 殺してやった花なんだからね。不平もきいてやったし、じまん話もきいてやったし、だまっているならいるで、時には、どうしたのだろうと、きき耳をたててやった花なんだからね。ぼくのものになった花なんだからね」 (102)

われわれは自分で、好んでこの世に生まれてきたわけではありません。誰かが(多分神様が)、そう定めたのです。日本人として、この両親のもとに、この時代に「生きよ」、と運命づけられたられたのです。われわれは、この定められた条件を受け入れることによってしか、この世で生きていくことはできません。

何の変哲もない、たった「一輪のバラの花」でも、自分の家族となると、運命の「選ばれた」縁者たちです。「水」をかけ、「覆いガラス」をかけ、「ケムシ」を殺し、「不平」や「自慢話」を聞いてやって、ようやく「自分のもの」にした、「大切な」花です。そしてこの世で「たった一つの」、「かけがえのない」花のためだったら、「死ぬ気」にだってなれるのです。

「人間っていうのものは、このたいせつなことを忘れてるんだよ。だけど、あんたは、このことを忘れちゃいけない。めんどうみたあいてには、いつまでも責任があるんだ。まもらなきゃならないんだよ。バラの花との約束をね・・・・」と、キツネはいいました。 (103)

われわれは、神様から与えられた、この条件を「尊敬」することにより初めて、人間らしく生きることができます。運命の家族の一員として、「面倒を見た相手」には、いつまでも「責任」があるのです。自分の親兄弟の悪口を言うことは、自分の悪口を言うのと同じことです。祖国の悪口を言う人は、天に唾をするのと同じことになるのです。

サン=テグジュペリが最も嫌ったのは、「バラの花との約束」を忘れた「無責任」な人間です。自分は安全な場所に避難して、対岸の火事を見物する人々です。自分のイデオロギーで、他人を批判する「口舌の徒」です。現在の価値観で、過去の歴史を批判する人々とは、先人の苦悩を想像することのできない、偏狭な心の持ち主なのです。

「ぼくの友だちになってね。ぼく、ひとりなんだ」と、王子さまがいいました。「ひとりなんだ・・・・ひとりなんだ・・・・ひとりなんだ・・・・」と、こだまが答えました。

王子さまは、そのとき考えました。「なんて、へんな星だろう、からからで、とんがりだらけで、塩気だらけだ。それに、人間に、味がない。ひとのいうことオーム返しにするきりだ・・・・。ぼくの星には、花があった。そして、その花は、いつも、こっちからなんにもいわないうちに、ものをいってたんだがなあ・・・・」 (90)

王子さまは、地球は孤独な星だ、と言います。「からから」で、「とんがり」だらけで、「塩気」だらけで、「人間」に「味がない」、無味乾燥な社会です。人の言うことを「オーム返し」にするだけで、「ひとりなんだ・・・・ひとりなんだ・・・・ひとりなんだ・・・・」と、「こだま」が飛び交う、孤独な星です。

現代は孤独な社会といわれます。孤独な社会とは、一人ひとりの人間に自立を求める社会のことです。そして、自己責任で行動することを求める社会です。これを民主主義といいます。民主主義は産業社会の思想です。農業社会や発展途上段階の国々にとっては、あまり意味のない思想です。

機械のように組み立てられた産業社会では、人間は一つの部品です。部品は機械という組織の最小単位で、ただ一つの機能だけを与えられています。しかし、たった一つの部品が欠けただけでも機械は作動しません。即ち、部品は自立していなければならないのです。

産業社会という機械の部品である個人は、いつでも自己責任で完璧に機能することが求められているのです。産業社会は、個人という部品が故障すれば、社会全体が動かなくなると考える社会です。神と個人が一対一で向かい合う、孤独な社会です。

だけど、さがしてるものは、たった一つのバラの花のなかにだって、すこしの水にだって、あるんだがなあ・・・・」

「そうだとも」と、ぼくは答えました。

すると、王子さまが、またつづけていいました。

「だけど、目では、なんにも見えないよ。心でさがさないとね」 (114)

私は、多くの人々にもっと「社会」に興味を持ってもらいたいと思います。人間が集団で機能していくための、新しいソフトウェアの開発が急がれています。自由主義や民主主義はアメリカの専売特許みたいになっています。しかし、自由主義や民主主義が21世紀の世界を救うとは思えません。それらは、あまりに科学万能、数字万能の機械文明の思想です。

もっと心安らぐ、人間らしい思想が欲しいと思います。われわれは、グローバル社会と言われる地球共同体の時代に生きています。ますます巨大化し、複雑化する社会を、人間が幸せに生きていける社会にしなければなりません。それは宗教も、経済も超越した、平和で豊かな社会です。

自分の子供や子孫のためにも、21世紀の新しい社会システムを本気で考えなければなりません。日本人は一千年前に「源氏物語」を生んだ、「もののあわれ」を解する国民です。人間に対する深い愛情と、洗練された美意識の伝統をもつ国民です。

21世紀の日本が、世界に役立てる分野があるとすれば、それは軍事大国でもなく、経済大国でもなく、「社会大国」だと思います。日本発の、世界を救うような、画期的な「心の文明」が出てきて欲しいと切に望んでいます。それは「たった一つのバラの花」や「少しの水」の中にも「もののあわれ」という「目に見えない」豊かな「心」を感じ取る文明です。

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「経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

お邪魔します。昔に戻ることが大切かもしれません。自身は知的障がいの方への理解を求めて行きたいです。記念のカレーライス作ってみました。手間がかかってしまう料理ですがご覧いただけたら幸いです。

投稿: たかパパ | 2007年12月16日 (日) 07時15分

お邪魔します。既にご承知の方もいらっしゃいますが 自身エディタが使えなくなる恐れがありまして 詳細は16日の記事 今後に関しては18日の記事にあります。ご理解頂ければ幸いです。よろしくお願いします。

投稿: たかパパ | 2007年11月19日 (月) 22時40分

同感です。心の古里をたいせつにするのがいいですね。産土の神に感謝しながらいきるのがいいようですね。今の世界が混乱しているのはアメリカ主義の強要にあると思います。納得して受け入れるのはいいのですが。武力で征服するやり方には反発があって当然でしょう。日本の現状はアメリカ主義の受容と反発の連鎖であるように思います。

投稿: 佐武寛 | 2007年11月 7日 (水) 14時00分

初めまして。訪問ありがとうございます。
内容の濃さに驚きました。
私も、興味のある部分です。たまたま、昨日経営者セミナーなるものに出席して感じたのですが、アメリカ的自由主義、拝金主義の時代は終わって、心の時代と言いますか、共生の時代というのか、言葉がよく分かりませんが、そういった時代が求められている気がします。

投稿: 森ちゃん | 2007年11月 2日 (金) 12時00分

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